ある町の仕立屋。都会ではなく、田舎町の。古くから続く、町の仕立屋。
サーフミュージックとジャズが流れる、どこか気の抜けた様な、ゆるやかな時の流れるその店内の片隅、古い足場板で貼られたフローリングの上には使い込まれたスナップ・オンとMTB、それと数枚のスケートボードに綺麗にリペアされたサーフボード。

店の中央にはアンティーク調の無垢材の大きなテーブルがひとつ。
その上には、美しく裁断された作業途中の型紙と、手入れの行き届いたJOHN LOBBのローファーが一足。
SINGERのアンティーク足踏みミシンが飾られた店内の棚には、整然と並べられたブリティッシュ調の生地サンプル達。そう、ここは町の仕立屋。ブティックではなく、古くから続く、町の仕立屋。

この店には、父の代から続く常連達や店主の趣味仲間が、暇を見つけてはやってくる。
いつも通り、正統派のブリティッシュトラッドを仕立てる初老の紳士。
作業着のままやって来て、「全ておまかせで」とオーダーする男性。
毎回どこか新しい、こだわりのディテールがないと気の済まない元バンドマンの青年。
しかし彼らは口を揃えてこう言う。『彼に頼めば大丈夫』なのだと。
『彼はこの町のスタイリストなのだ』と。

穏やかで、どこか飄々とした雰囲気の店主。音楽とマニュアルメカをこよなく愛し、何よりスローなライフスタイルを生きる彼の作り出すスーツは、何処か時代を錯覚させる様な魅力を放つ。
まるでプラモデルを作る様に、お客様一人一人と対話しながら一つひとつ丁寧に。
いつまでも永く来てもらえる様に。なるべくシンプルに。しかし着実に、時代に攻めて行く様に。

そして今彼の廻りには、彼のそのスタイルに共感を覚えた人々が、ぽつぽつと、日本各地からやってくる。
そう此処は、古くから続く町の仕立屋。KUROKI BESPOKE ROOM。